あの夜、目の前にはたくさんの人がいた。

2011年の秋、僕のワンマンの際に、僕のバンド"tsukuyomi"は生まれ、その時にゲストシンガーとして参加してもらったのが、波音という名前が生まれる前の小林亮三だった。
スタンダードを2曲、session要素の強いステージだった。
それ以来、僕らはこのコラボレーションだからこその、より深いところから共同で作り上げるステージをイメージし始めた。
いつになるかはわからないが、それは必ずやって来る。
その後彼は鹿児島へ移住。
新しい環境に身を置き、新しい空気を吸い、新しい作品を生む。
僕は東京で、その時をただゆっくりと待つ。
彼の中の表現者が、東京で歌う、ということを決める日。
2012年も終わりかけたある日、彼から連絡があった。
「東京で歌いたい、一緒に演奏しよう。」
僕も答えた。
「待ってたよ。"tsukuyomi"メンバーを揃える。」
その夜に名前を付けた。
『月の待ち人』
何重にも意味を重ねた。
僕ら自身がこの共演を心待ちにしていたこと。
波音の歌をたくさんの人が東京で待っていたこと。
波音自身が東京で歌うのを待っていたこと。
その日に上る月は月齢19.8歳。更待月(ふけまちづき)と言って22時頃に顔を出す。
22時はすべての演奏が終わる時間、その月をその場にいるみんなで待とうということ。
特別な夜にふさわしい素晴らしき歌い手、樽木栄一郎と大柴広己のお二人に共演をお願いした。お二人とも即決で快諾してくれた。
2月初旬、波音と僕は今回演奏する曲たちに関して意見交換を本格的に始めた。
まさに「交換」。
鹿児島と東京の間で。
キーワードやイメージをお互いに送り、自分の心が開いたタイミングで相手の言葉を受け取り、またそれによって喚起された新たなイメージを送る。それを繰り返す。
今回の演奏時間は45分。
用意する曲は7つ。
この日のためにお互いに新曲を作る。
一つずつ決めて行った。
以前からだけど、不思議なのは波音と僕がお互いの心境やイメージをたった少しの言葉でキャッチし合えること。
お互いに感じたことは、音のイメージが、波音は静から動へ、僕は動から静へ、という逆の動き方をしている事。僕らのイメージが両端から歩いて来て出逢うところ、そこが今回のステージで僕らが描きたい世界になる。
少しずつお互いのイメージが重なって行く。
そして迎えたバンドリハーサル。
いつものように直前に(笑)僕から譜面とデモを渡された"tsukuyomi"メンバーが、僕自身が一番驚くようなセンスで、
僕が並べたコードを新しい曲として立体的に浮かび上がらせる。
いつも思うが、このメンバーの解釈と反応の早さには恐れ入る。心強いことこの上ない。
波音は歌詞とメロディーを、僕は編曲をギリギリまでつめながら、その日がついにやって来た。

樽木栄一郎は息を飲む至高のソロパフォーマンス。

大柴広己トリオはパワフルなスタートから一転、中盤から涙を流すお客さんもたくさんいた。

そして始まった。
彼が歌い出した。

この日、僕がメンバーに求めたイメージは一つ
「ひたすらに美しく」
その意味はただ綺麗に、という事ではなく、
「人間の美しさ」を「魂の美しさ」を
繊細な音から 渾身の音まで 最大の振り幅で
只熊良介(ds)

梅田誠志(b)

丸山力巨(g)

清野雄翔(key)

禹貴恵(vln)

そして僕(sax)

波音に求めたイメージも一つ
「僕らの音の中を泳げ」

最後の1曲は、僕らの思い出のスタンダードにした。
最後はただただ子供のように楽しく演奏したかった。
樽木さんにも大柴くんにも歌ってもらった。

すべてが終わった22時。
夜空には月が出た。

いらっしゃった たくさんのみなさまに 心から御礼申し上げます。
「月の待ち人」
~終宴~
また いつか この星の どこかで
お逢いしましょう

(photo by satomi,tomoko&eko special thanx!!)
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